昭和後期あるある~富士フイルムの黒い「フィルムケース」の万能さ
現像後に残る黒い円柱形のプラスチックケース。500円玉貯金箱にしたり、ビーズを入れたり、男子はダンゴムシやカエルを捕まえて入れておく最強の携帯容器でした。
昭和後期に子ども時代を過ごした方なら、写真屋さんで現像を頼んだ後に必ず手に入った、あの黒くて丸い「フィルムケース」を覚えている方も多いのではないでしょうか。中身が空になった後も家庭のあちこちで活躍し、貯金箱になったり、裁縫道具入れになったり、時には男の子が捕まえてきたダンゴムシやカエルの一時的な住処になったりと、用途は驚くほど幅広いものでした。今回は、そんな富士フイルムの黒いフィルムケースにまつわる昭和のあるあるを振り返りながら、なぜあれほど万能な容器として愛用されていたのかを考えてみます。デジタルカメラもスマートフォンもなかった時代、フィルムは家庭にとって身近な消耗品であり、それを包んでいた黒いケースも、いつのまにか暮らしの一部として溶け込んでいました。当時を知る世代にとっては懐かしく、知らない世代にとっては新鮮に映る、昭和ならではの生活の知恵をのぞいてみましょう。
1.黒いフィルムケースとはどんな容器だったのか
黒いフィルムケースは、35mmフィルムを収納するために作られたプラスチック製の円柱形容器です。直径3.5cmほど、高さ5cm前後というコンパクトなサイズで、パチンと音を立てて閉まる蓋が付いていました。フィルムを光から守る必要があったため、中まで光を通さない黒い不透明素材が使われており、これが後にさまざまな用途で重宝される理由のひとつになります。写真屋さんでフィルムを購入すると容器ごと渡され、現像を終えて写真を受け取る頃には空のケースだけが手元に残ります。昭和後期は家庭に一台はフィルムカメラがある時代で、旅行や運動会、七五三などのたびに写真を撮っていたため、気づけば家の中に何個も黒いケースが溜まっていく、という家庭も少なくありませんでした。街の写真屋さんは「DPE店」と呼ばれ、現像・焼き付け・引き伸ばしをまとめて頼める身近な存在でした。フィルムを買うたびに新しいケースが増えていくため、引き出しの中で何個も転がっているのが当たり前の光景で、捨てるにはもったいなく、かといって使い道もすぐには思いつかない、そんな微妙な立ち位置の容器でもありました。
2.500円玉貯金箱として大活躍
黒いフィルムケースの使い道としてまず思い浮かぶのが、貯金箱代わりの活用です。ケースの直径が500円玉とほぼ同じくらいで、硬貨を積み重ねて入れるとちょうど良い高さになったため、子どもたちの間では「500円玉貯金」の容器として重宝されていました。蓋をパチンと閉めれば簡単には開かず、振るとカチャカチャと音がするのも楽しみのひとつだったのではないでしょうか。数個貯まると自分だけの「へそくり」感覚があり、お小遣いを少しずつ貯めては、欲しいお菓子やおもちゃを買うために開ける瞬間を心待ちにしていた子どもも多かったはずです。棚の上や机の引き出しにいくつも並べて、どれが一番重いかを兄弟や友達と比べ合うのも、ちょっとした楽しみのひとつでした。中身がぎっしり詰まると蓋が閉まりにくくなるのも愛嬌で、無理やり押し込んでは「もう少しで満杯だ」と喜んでいた記憶がある方もいるでしょう。
3.裁縫箱の小物入れとしても定番
家庭の裁縫箱の中に、黒いフィルムケースが紛れ込んでいたという記憶がある方もいるでしょう。ボタンやビーズ、待ち針、糸くずといった細かい小物は、そのまま裁縫箱に入れておくと散らばったり紛失したりしがちです。そこで、蓋がしっかり閉まる黒いケースに入れておくことで、持ち運びや保管がぐっと楽になりました。透明な容器と違って中身が見えない分、色や種類ごとに分けて並べておけば管理もしやすく、母親や祖母の裁縫道具として長く使われていた家庭も多かったのではないかと思います。同じように、編み物用の小さな毛糸玉や、あみだしたレース糸の切れ端をまとめておく容器として使われることもありました。フィルムケースはひとつひとつのサイズがほぼ同じなので、複数並べて棚に収納すると見た目もすっきりし、探し物をする手間も減らせるという実用面での利点もあったようです。
4.男の子の生き物採集ケースとしての顔
黒いフィルムケースが特に威力を発揮したのが、外遊びの場面です。ダンゴムシやアリ、時にはカエルやバッタなど、男の子たちが捕まえてきた生き物を一時的に入れておく容器として使われていました。蓋にキリや画鋲で小さな穴をいくつか開けておけば、簡易的な虫かご代わりになります。ポケットに入る大きさで持ち運びやすく、蓋を閉めれば逃げる心配もないため、まさに「携帯用の生き物ケース」として重宝されていました。学校帰りや公園遊びの合間に、ランドセルやポケットの中にこっそりフィルムケースを忍ばせていた経験がある方も少なくないでしょう。中に葉っぱや土を少し入れて即席の飼育環境を作り、家に持ち帰ってからしばらく観察するという遊び方をしていた子どもも多かったようです。もちろん生き物を長く飼うには適した容器ではないため、観察が終わったら元いた場所に逃がしてあげる、というのが暗黙のルールになっていた家庭もあったのではないでしょうか。
5.文房具や釣り道具、キャンプ用品の収納にも
フィルムケースの活躍の場は、屋内外を問わず広がっていました。細かいビーズや折れたクレヨン、工作用の小さなネジや部品を整理する容器として使われたほか、釣りをする家庭では仕掛けの小さな重りや針を種類ごとに分けて入れるのに便利でした。キャンプや遠足の際には、塩やこしょうなどの調味料を少量だけ詰め替えて持って行く「携帯調味料入れ」として使う家庭もあったようです。密閉性が高く、湿気や汚れからも中身を守ってくれるため、細かいものを分類して持ち運びたい場面で自然と選ばれる容器になっていました。裁縫箱や工具箱の中でひとつだけ黒い容器が紛れていると、それだけで「大事なものが入っている」ような特別感があったのも、フィルムケースならではの魅力だったのではないでしょうか。中身を入れ替えれば何度でも使い回せる手軽さも、当時の暮らしにしっくり馴染んでいた理由のひとつです。
6.なぜここまで万能に使われたのか
黒いフィルムケースがこれほど幅広く活用された背景には、いくつかの理由が重なっています。まず、フィルムを光から守るために作られた頑丈で密閉性の高い構造が、そのまま日用品の収納にも適していたこと。次に、片手にすっぽり収まるサイズ感が、貯金箱にも虫かごにも小物入れにもちょうど良かったこと。そして何より、写真屋さんでフィルムを買うたびに無料で手に入り、使い終わっても捨てずに再利用するのが当たり前だった、という昭和の暮らしぶりも影響しているでしょう。物を大切に使い切る「もったいない」の感覚が根付いていた時代だからこそ、空き容器ひとつにもさまざまな役割が与えられていたのだと考えられます。今のようにプラスチック容器や収納グッズが百円均一のお店で気軽に手に入る時代ではなかったことも、身近にある空き容器を工夫して使う知恵につながっていたのでしょう。買わなくても、手元にあるもので用が足りるという感覚は、今の暮らしにも通じるヒントが詰まっているように思います。
7.平成以降、フィルムケースが姿を消していった背景
平成に入り、デジタルカメラや使い捨てカメラが普及するにつれて、フィルムを買って現像に出すという習慣は少しずつ減っていきました。さらに2000年代以降のスマートフォンの普及によって、写真はデータとして撮影・保存するのが主流となり、街の写真屋さんでフィルムを購入する機会そのものが少なくなっていきます。その結果、家庭に自然と溜まっていた黒いフィルムケースも、以前ほど手に入らなくなりました。今ではフリマアプリなどで懐かしさから探し求める人がいるほど、当たり前にあった存在から一転、貴重なアイテムになりつつあります。近年はフィルムカメラ自体が若い世代の間で再評価される動きもあり、それに伴って黒いフィルムケースを懐かしむ声や、あえて小物入れとして愛用する人の姿も見かけるようになりました。かつては当たり前すぎて誰も気に留めなかった容器が、時を経て特別なアイテムに変わっていく様子は、昭和の暮らしを振り返るうえでも興味深いポイントです。
8.まとめ|黒いケースが教えてくれる昭和の暮らしの知恵
貯金箱、裁縫道具入れ、生き物ケース、調味料入れと、黒いフィルムケースはひとつの容器でありながら、家庭のさまざまな場面で活躍してきました。決して高価なものではなく、写真屋さんでフィルムを買えば自然と手に入るものだったからこそ、子どもも大人も気兼ねなく自由な発想で使い道を広げていったのではないでしょうか。物を無駄にせず工夫して使い切る昭和の暮らしぶりは、便利なものが簡単に手に入る今の時代だからこそ、あらためて振り返る価値があるように思います。押し入れの奥や引き出しの片隅に、あの黒いケースがまだ眠っている家庭もあるかもしれません。もし見つけたら、当時の記憶とともに、どんな用途で使っていたかを思い出してみるのも楽しいひとときになるのではないでしょうか。
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